電気科学技術奨励賞についてAwards
第70回電気科学技術奨励賞受賞作 内容紹介
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- 第70回
- 第69回
電気科学技術奨励賞並びに文部科学大臣賞[1件]
「920MHz帯 空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの開発と実用化」
パナソニック ホールディングス株式会社 | 谷 博之 |
株式会社 パナソニック システムネットワークス開発研究所 | 田中 勇気 |
京都大学 | 篠原 真毅 |
近年、IoT(Internet of Things)の普及により、センサをはじめとする情報機器の数が増加しており、電池交換・充電や電源配線が課題となっている。この課題を解決するため、マイクロ波による空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの開発に取り組んできた。
特に、920MHz帯の周波数を使用することで、広い空間で場所を気にせずウェアラブル機器などに、ワイヤレスで電源を供給するシステムが実現可能となる。2022年5月、電波法施行規則等に関する省令が改正され、一般環境下での利用が可能となったが、人体や他の通信機器への影響を考慮し、送電出力は1W以下に制限されている。この制限内において、いかに電力を効率的に伝送し、広い範囲にある受電機器へ電力を供給できるかが、研究開発課題となっている。
この課題に対し、効率的に空間へマイクロ波を送受電する小型アンテナ技術、受電したマイクロ波電力を効率的に安定して直流電力へ変換する受電回路技術を新たに開発し、1W以下の小電力送電において、最大10m先のセンサ等の機器を動作させるシステムを確立した。実環境下での検証を行い、業界に先駆けて空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの実用化を達成した。さらに広い範囲で、より多くの電力を送電することを目的に、送電機を複数配置し、それらを協調制御することで、高速かつ高精度に電力スポットを形成する分散協調型送電技術を開発した。この技術により、ワイヤレス電力伝送システムの適用市場をさらに大きく拡大していく。
電気科学技術奨励賞並びに電気科学技術奨励会会長賞[1件]
「小型省電力OOLS(Optical Open Line System)の実用化」
日本電信電話株式会社 | 須田 祥生 |
日本電信電話株式会社 | 菊池 清史 |
日本電信電話株式会社 | 岡本 聖司 |
5Gサービスのエリア展開を契機に日本国内通信ネットワークの末端までトラヒック増が予測される中で、末端ビルまで含めたメトロネットワークに対する1波長あたり100Gbpsの システムの導入を経済的かつ小型・低消費電力で実現する必要がある。
メトロネットワークへの適用を目的とした小型省電力OOLSの実用化開発においては、①NTTが開発したシリコンフォトニクス技術を適用したCOSA(Coherent Optical Sub-Assembly)、②低消費電力100Gデジタルコヒーレント光伝送技術、③既存WDMシステムとの光直結接続を実現するλ接続技術、④小型省電力システム化構成技術を適用することで、従来の100G WDMシステムに対して抜本的な経済性、省スペース性・省電力性を実現し、2022年度末の5Gサービスの人口カバー率70%達成に向けた道筋を立てるとともに、カーボンニュートラル実現に大きく貢献した。
電気科学技術奨励賞[16件]
「画像処理技術を用いた信号ボンド異常判定装置の開発と実用化」
東日本旅客鉄道株式会社 | 工藤 由康 |
東日本旅客鉄道株式会社 | 鈴木 雅彦 |
株式会社 東芝 | 山口 修 |
信号ボンドは、鉄道の安全・安定運行を確保するために重要な信号設備である軌道回路を構成する機器であり、年1~3回の目視点検を行っている。その点検は特に首都圏においては列車の運行していない夜間わずかな時間行う必要があることから作業員の負担が大きく、設備も点在しているため効率的な点検が困難であった。
今回開発した信号ボンド異常判定装置は、目視による信号ボンドの点検作業削減を目的に、営業列車に搭載したカメラで撮影した設備の静止画像を処理・解析することにより、自動で信号ボンドの正常・異常を判定する装置である。本装置は2022年4月から実導入され、山手線ほか16線区(約61,000箇所)の信号ボンドの点検に使用され、鉄道の安全・安定運行の確保や点検の効率化を実現している。
「3Dセンシング・技認識技術によるAI体操採点システムの実用化」
富士通株式会社 | 矢吹 彰彦 |
富士通株式会社 | 佐々木 和雄 |
富士通株式会社 | 井谷 司 |
本受賞作は、体操競技における正確かつ公平な採点を可能とするAI体操採点システムの基本技術の確立と、国際体操連盟・日本体操協会との連携による実用化の達成を評価されたものである。体操競技は器具・技能の進化に伴う選手の動きの高速化・複雑化により、審判員の目視判定が困難になるという課題があった。
AI体操採点システムは、①3DレーザセンサとAI骨格認識によるマーカーやセンサを必要としない人の動きのデジタル化(3Dセンシング技術)、②採点規則のデジタル化を通じた技判定の自動化(技認識技術)、という革新的な基本技術の開発を基盤とし、肘・腰・膝関節などの角度をフレームごとに示すマルチアングルビューと、技の区切りごとに技判定結果を示す自動採点ビューにより審判の採点活動を支援する。本開発は、従来は「経験と勘」に頼っていた判定を「客観的なデータ」に置く、スポーツのデジタル・トランスフォーメーションに関する世界初となる事例である。
「中性子国家標準に基づく精密校正技術開発及び普及による国民生活の安全への寄与と国際貢献」
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 | 原野 英樹 |
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 | 松本 哲郎 |
中性子は原子力、工業、医療応用などさまざまな形で国民生活に利用されており、新たなニーズも拡大し続けている。
受賞者らは、これまで中性子測定技術に関する研究開発及び、中性子線量に関する国家標準の高度化と普及に優れた業績を持つ。産業界等への中性子標準の供給には、中性子線源の輸送など技術的・経済的課題が大きかったが、小型平坦応答中性子検出器などの独創的なアイデアを考案、実用化することによって解決に導くとともに、計量法校正事業者登録制度(JCSS)によるトレーサビリティー体制を確立した。海外の二次標準線量研究所のためのガイドライン作成など国際貢献にもつながっている。
さらに、陽子線治療など新たな中性子標準ニーズの増大に即応して、高エネルギー領域でのスペクトルやフルエンスの精密計測技術を高度化させ、世界に先駆けて高エネルギー中性子標準を確立した。
「産業分野への赤外線加熱技術の実装に向けた取り組み」
中部電力株式会社 | 河村 和彦 |
中部電力株式会社 | 永松 克明 |
中部電力ミライズ株式会社 | 杉山 公英 |
輸送機器、食品・プラスチックなどの産業分野では、労働者の手元で燃焼を伴う加熱工程がある。そのため、室内環境は、暑く過酷であった。また、脱炭素化が求められており、燃焼によるCO2排出が課題であった。
受賞者らは、吸排気の排出ロスを低減させて、エネルギーを効率良く使う電気式の赤外線加熱技術により課題解決を図った。これにより、輸送機器、食品・プラスチックなどの産業分野で主流である燃焼を赤外線加熱技術に置き換えることで、工場生産時におけるCO2の排出をなくすことに1歩近づけることができた。
代表的な実装事例としては、「プラスチック製品の連続式アニール装置」というもので、プラスチック成形品の歪を取り除くための電気式加熱炉である。これにより、従来の燃焼式の熱風方式に比べて、処理時間は1/20~1/70、生産コストは1/2に低減した。
また、エンジン製造工場で使用する「金型加熱器」、「サブストークヒータ」及び「塗型焼成乾燥機」といった輸送機器分野への実装では、これまで課題であった加熱時間の短縮、エネルギー使用量の削減及び作業環境の大幅な改善が達成できた。
「低コスト高効率タンデム太陽電池向け透過型Cu2O太陽電池の開発」
株式会社 東芝 | 山崎 六月 |
株式会社 東芝 | 芝﨑 聡一郎 |
株式会社 東芝 | 保西 祐弥 |
低コスト高効率Cu2O/Siタンデム太陽電池は、EVや電車、成層圏通信プラットフォーム(HAPS)といった電動モビリティへの適用が期待でき、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する技術である。そのキーデバイスである透過型Cu2O太陽電池の高効率化と高透過率化を実現した。
研究開発のポイントは、Cu2O発電層内部に不純物として生成しやすいCuOとCuを最小化する成膜技術を開発した点であり、高い発電効率(世界最高効率8.4%)と高い透過率(76%(透明化は当社のみ))を同時に達成した。さらに単体効率25%のSi太陽電池とタンデム化した効率を試算した結果27.4%の値が得られ、Si世界最高効率26.7%を超えるポテンシャルを有することを示した。
本技術は、米国科学雑誌「Applied Physics Letters」に掲載され、将来の充電なしEVを実現する新技術として多方面で紹介されている。
「操作性・安全性に優れヘリウム資源保護に貢献する冷凍機冷却超電導磁石の開発と実用化」
東芝エネルギーシステムズ株式会社 | 小柳 圭 |
東芝エネルギーシステムズ株式会社 | 戸坂 泰造 |
東芝エネルギーシステムズ株式会社 | 下之園 勉 |
超電導磁石は、従来の電磁石では得られない高磁場を提供できるためさまざまな応用が期待されているが、取り扱いが難しく安全性にも課題のある極低温4.2K(-269℃)の液体ヘリウムを冷却に用いることが普及を妨げる要因の1つになっていた。
受賞者らは、超電導コイルへの侵入熱を極限まで低減する技術や冷凍機までの伝熱抵抗を低減させる技術等の開発により、液体ヘリウムを使用せず極低温冷凍機のみで超電導コイルを4Kレベルまで冷却する冷凍機冷却超電導磁石を世界で初めて実用化した。本磁石の実現によって、超電導磁石の操作性・安全性を飛躍的に向上させるとともに、医療、産業分野への応用の幅を大きく広げた。
医療用では、大型装置の小型化による普及を実現し、産業用では、液体ヘリウムの入手が困難であった地域に超電導磁石を普及させる原動力となった。さらに、枯渇が懸念されているヘリウムの資源保護にも貢献している。
「Society5.0の実現を支える大規模AI高速化技術の開発と実践」
富士通株式会社 | 笠置 明彦 |
富士通株式会社 | 山崎 雅文 |
富士通株式会社 | 田原 司睦 |
Society5.0は仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより経済発展と社会的課題の解決を両立させる社会であり、目指すべき未来社会の姿として提唱された。このSociety5.0を実現するために、AI技術は必要不可欠な技術分野である。しかし、AI技術の開発で生じる膨大な計算需要に対して、LSI(大規模集積回路)の微細化による従来のアプローチだけでは性能向上が頭打ちとなり、十分な計算能力を供給できなくなる。
受賞者らはこの課題に対し、大規模にコンピュータを束ねてAI技術開発を行う分散並列深層学習技術を継続的に開発し、富士通製のスーパーコンピュータ「富岳」を代表とする計算機基盤で世界最高速のAI処理速度を達成した。本技術で使用した技術はオープンソースライブラリとして公開されており、幅広い産業領域の発展に大きく貢献している。
「最高風速による縦型洗濯乾燥機の乾燥仕上がり向上技術開発」
日立グローバルライフソリューションズ株式会社 | 千葉 浩司 |
株式会社 日立製作所 | 塚本 和寛 |
株式会社 日立製作所 | 川村 圭三 |
家事の省力化に貢献する洗濯乾燥機では、高い洗浄性能や乾燥性能、及び低消費電力量が求められている。中でも縦型洗濯乾燥機は比較的低価格かつ洗浄性能が高いとの評価から広く普及しているが、一方で乾燥性能、アイロン掛けの手間を省く衣類の仕上がり(シワの少なさ)の向上が課題であった。
そこで、縦型洗濯乾燥機の乾燥仕上がり向上を目的に、時速500kmの高速温風(※1)、衣類撹拌性能の向上、衣類のねじれ抑制により、乾燥仕上がり評価値(※2)を大幅に改善した。この結果、乾燥仕上がりの評価が高いドラム式洗濯乾燥機と同等以上の乾燥仕上がりを実現した。
※1 当社調べ。吹出口面積と風量から換算した吐出口付近の速度。
※2 当社独自指標。
「低抵抗かつ高品質なGaN単結晶ウェハ製造技術の開発」
パナソニック ホールディングス株式会社 | 滝野 淳一 |
パナソニック ホールディングス株式会社 | 隅 智亮 |
パナソニック ホールディングス株式会社 | 岡山 芳央 |
カーボンニュートラル実現に向けて、世の中のあらゆるところで用いられている電力変換(電流・電圧や周波数の調整)時の損失を大きく低減可能なGaNやSiCなどのワイドバンドギャップ半導体を用いたパワーデバイスの普及が期待されている。今回、新たに酸化物気相成長法(OVPE)を開発し、従来技術では困難であった、電気抵抗が低く、かつ結晶品質が高いGaN単結晶ウェハを実現した。
OVPE法では、Ga原料として酸化物ガスを用いるため、結晶へ導電性を付与するための多量の酸素添加が容易であり、従来技術より1桁以上低い抵抗率を達成した。また、微細凹凸構造を有する成長モードの実現により、従来技術より1桁高い結晶品質を達成した。さらに、OVPE法で製造したGaN単結晶ウェハを用いてパワーデバイスを試作した結果、従来技術で作製した基板上に比べオン抵抗が1/8に低減するなど、電力変換損失削減につながる優れた特性を実証した。
本開発技術の実用化により、既存のSiパワーデバイスを置き換える高性能なGaNパワーデバイスの普及促進を図る。これにより、CO2削減・カーボンニュートラル実現に大いに貢献することが期待される。
「サイバーセキュリティ演習環境の構築と演習実施を通じた業務面でのセキュリティレベル向上への貢献」
一般財団法人 電力中央研究所 | 嶋田 丈裕 |
一般財団法人 電力中央研究所 | 上田 紀行 |
2000年代に入ると電力各社においてもさまざまな業務にインターネットが活用される一方、「重要インフラのサイバーテロ対策に係る特別行動計画」が定められるなどサイバーセキュリティ確保への関心が急速に高まる状況にあった。
このような流れを受け、受賞者は、当時インシデント対応訓練を行う演習の類例が見られない中、国内電力会社向けのサイバーセキュリティ演習(インシデント対応訓練)の実施に向けた検討を独自に行い、2004年に演習を開始するに至った。以来、現在に至るまで、シナリオや演習環境を更新して演習を継続し、19年間で約1,500名が本演習を受講し、国内電力会社におけるサイバーセキュリティ能力の向上に貢献してきた。
本サイバーセキュリティ演習は、机上演習やシミュレーション演習ではなく、サイバー攻撃や防御の演習を行うために、実際のコンピュータ上に特別に構築した演習環境(サイバーレンジ)を用いたハンズオン形式を特徴とするものである。この演習環境は、電力会社が所有するシステムを模擬することにより、自社におけるサイバーセキュリティ業務にて活用しやすいノウハウや経験を積むことを可能としている。
「配電線の風疲労を対象とした疲労試験機の開発と疲労損傷度評価法の構築」
一般財団法人 電力中央研究所 | 早田 直広 |
屋外の電柱間に敷設される配電線は常に風雨に曝されるため、経年によって疲労損傷が進行し、断線に至る場合がある。この対策に資するため、強風に対する配電線の耐疲労性能を評価するための疲労試験機を開発した。
この試験機は、強風によって配電線が横振れするときにがいし際に生じる繰返し応力を模擬することが可能であり、実際の環境下での挙動に基づいた疲労強度を評価することができる。
また、試験によって得られた疲労強度をもとに、各地に敷設された配電線の疲労損傷度を定量的に評価する手法を開発した。本評価法は、風速階級別の発生頻度、風による配電線の発生応力と振動回数、がいし際での断線に対する疲労強度をそれぞれ評価し、これらの情報を組み合わせることで疲労損傷の進行度を算定するものである。これによって、疲労損傷リスクの高い地域や設備が明らかになるため、対策の優先順位をつけることが可能となり、設備の保守業務に活用することができる。
「機微な情報を安全に利活用できる秘匿検索処理技術の開発と実用化」
株式会社 日立製作所 | 吉野 雅之 |
株式会社 日立製作所 | 佐藤 尚宜 |
株式会社 日立製作所 | 長沼 健 |
本技術は、暗号化によりデータを保護する「秘匿性」と、大量データの検索を即座に完了できる「高速性」の、両方の特長を併せ持つ秘匿検索技術である。デジタル技術の発展により、膨大なデータが収集され、そして社会問題の解決や新事業の創生に活用されている。一方、サイバー攻撃の高度化等により、世界中で多数の情報漏洩が報告されている。この問題を解決するため、日立は、暗号化したまま高速にデータを探し出す独自の秘匿検索技術を開発し、実用化した。
本技術を用いると、クラウド側ではデータを秘匿したまま管理・検索が可能であり、暗号化データの中身はクラウド管理者でさえも閲覧することはできない。そのため、機微なデータをクラウド経由で安全に共有することができる。
本技術は、データを保護する基本技術として、金融機関のみならず自治体・医療機関など複数の業種で実用化されている。
「320km/h高速走行性能と経済性を両立した新幹線高速シンプル架線の導入」
東日本旅客鉄道株式会社 | 加藤 洋 |
東日本旅客鉄道株式会社 | 熊谷 和博 |
公益財団法人 鉄道総合技術研究所 | 常本 瑞樹 |
東北新幹線は速達性と利便性向上のため、最高設計速度260km/hで1982年大宮・盛岡間が開業。その後、東京・青森方面延伸や高速化が進められ、2013年営業速度320km/hを達成した。
本受賞作は、東北新幹線において、320km/hの営業速度を維持したまま、電車線リニューアルの施工推進工法を確立し、実現したことに関するものである。これまで用いられてきたコンパウンド架線を、本リニューアルにて日々の運行を継続したまま、260km/h前後の整備新幹線で使用されてきたシンプル架線の電線張力をより高くした高速シンプル架線に変更。これを実現する過程で、シンプル架線の適用速度範囲の拡大に関する研究のほか、経済性・高速性能を併せ持つ最適な架線の組み合わせを走行試験で確認、実用化を進めてきた。
北日本エリアの速達性向上による物流の強化、産業の発展並びに国民生活の向上に寄与した点で意義の高い研究並びに実用化である。
「既設の光ファイバインフラを活用した交通状況の高精度監視技術の開発と実用化」
日本電気株式会社 | 樋󠄀野 智之 |
NEC Laboratories America | Philip Ji |
日本電気株式会社 | 櫻井 均 |
本技術は、道路沿いに既に敷設されている通信用途の光ファイバインフラに着目し、光ファイバセンシング技術により道路上の全車両の走行振動を捉え、時間軸に基づいて車両位置を分析することで、道路全線の交通状況をリアルタイムに推定する技術である。これにより、従来の交通量計を用いる手法と比較して、より経済的に交通状況の全線監視を可能とした。
既設の光ファイバインフラをセンシング用途として利用する場合、光ファイバの余裕部分の存在などにより車両の検知感度のバラつきや測定位置の誤差が発生することが、実用化に向けた重要課題となっていた。受賞者はこれらの課題を解決するAI分析アルゴリズムを開発し、実際の高速道路で実証実験を行って、既存の手法と同等の高い精度で道路全線にわたって交通状況をリアルタイムに推測できることを確認した。本技術は、交通状況の高精度監視システムとして実用化され、道路の広域監視に貢献している。
「電力用絶縁開閉装置のSF6ガス使用量を削減する環境負荷低減技術の開発」
三菱電機株式会社 | 堀之内 克彦 |
三菱電機株式会社 | 佐藤 基宗 |
三菱電機株式会社 | 久保 一樹 |
電力系統保護のため落雷や短絡事故発生時に電流を遮断する電力用開閉装置において、遮断時に発生する高温のアークを速やかに冷却し消すことができる新材料をノズル(ガス吹付の流路形成用部品)へ適用することで、温室効果の高いSF6ガス使用量の半減につながった。
本技術の特徴は、アーク冷却に寄与する絶縁材料のアブレーション効果に着目し、①樹脂のアークの光による分解メカニズムを解明し、生成ガス量を定量的に求める方法を見出した点、②材料の構造に着眼し遮断性能及び絶縁性能に優れる画期的な新しいアブレーション材料を創出した点にある。
この材料の導入によって、遮断性能を飛躍的に向上させることができ、ガス封入用タンクの小型化へつながるとともに、従来遮断ユニット数を2点有していた超高圧開閉装置では、遮断ユニット数を1点に削減して、二酸化炭素の25,200倍の温室効果があるSF6ガスの使用量を半減できる。
「小学校と連携した「プログラミング的観点」を養う授業モデルとプログラミング教育の自立化に向けた授業モデルの構築・実践」
明石工業高等専門学校 | 上 泰 |
福井工業大学 | 岩野 優樹 |
明石工業高等専門学校 | 梶村 好宏 |
小学校のプログラミング教育必修化に対する主な現場課題は、「①プログラミング的思考の意味や論理的な思考との違いがはっきりせず、どう指導してよいかわからない」、「②プログラミング体験に適した内容や教材に見当もつかない」、「③教育の内容・質が現場教員の個人スキルに大きく依存する」の3点であり、これらの解決に小学校の先生方と取り組んだ。
①については、コンピュータの特徴である「指示された動作を『1つずつ』、『忠実に』、『高速に』実行すること」を「プログラミング的観点」と定義し、「プログラミング的観点をもった論理的思考である」 という解釈を与え、指導上の方向性を具体化した。②については、micro:bit等の小学生向け教材を用い、歩行者信号機の動作再現等の身近な題材で「プログラミング的観点」が養える授業モデルを構築した。③については、レストランの定員呼び出しボタン(無線送信機)等の身近な題材、かつ、命令5個程度のシンプルなプログラムを扱い、説明用の動画があれば小学校の先生だけで指導できる授業モデルを構築した。
なお、③の評価は、受賞者らが現地に赴かない状態で複数の小学校(最大8校15クラス)に対するオンラインでの一斉プログラミング授業で現場指導された先生へのアンケートに基づいており、全国の小学校に対してオンライン授業展開できる可能性を示唆している。